小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 天使と悪魔 ダン・ブラウン(2000)

【あらすじ】

 宗教象徴学を専門とするロバート・ラングトン教授は、16世紀に創設された秘密結社「イルミナティ」の紋章を焼き付けられた死体の写真を見せられる。死体は欧州原子核研究機関(CERN)の科学者レオナルド・ヴェトラ。レオナルドは最近、核エネルギーを凌駕する反物質の生成に成功しており、その反物質も犯人によって盗まれていたことが判明する。CERNから依頼を受けたラングトン教授は、殺害されたレオナルドの娘、ヴィットリア・ヴェトラとともにローマへと向かう。

 一方ローマでは、新しい教皇を選出するコンクラーベの真っ最中。そんな中、新教皇の有力候補(プレフェリーティ)の4人が揃って失踪した。そんな中、前教皇の侍従、カルロ・ヴェントレスカのもとにイルミナティを名乗る者から電話が鳴る。かつて科学者を弾圧したキリスト教会に復讐するため、1時間に1人ずつ、拉致した新教皇の有力候補を殺害してゆくという。

 

【感想】

 ダン・ブラウンの作品で、「ダ・ヴィンチ・コード」と本作品のどちらを取り上げるか迷ったが、どうせ迷うならと、ラングトン教授の初登場作品である本作品を選んだ。CERNからさし回られた専用機(この専用機がまたすごい!)に乗り込む冒頭部から、反物質の生成、秘密結社「イルミナティ」の関与、そしてヴァチカンの教皇選挙(コンクラーベ)を軸にした事件と、新旧入り混じったトレビアが「これでもか!」と詰め込まれている。

 そして物語は、数少ないヒントから、宗教象徴学の専門家のラングトン教授が次に犯行が行われる場所を推理し、失踪した4人の新教皇の有力候補を救い出すタイムリミット物として進んでいく。大きく捕らえると前回取り上げた「ボーン・コレクター」を彷彿とさせる。本作品も犯人とラングトン教授の知恵比べの様相であるが、その専門知識のレベルが高く、またローマの観光案内にもなって、読む人をハラハラさせながらも楽しませている。「トレビア」は、聞いたことはあるけど詳しくは知らないレベルの物を、本格的に掘り下げながら要所要所で使われるため、読み手のページをめくる「エンジン」は常に回りっぱなしの状態になる。そしてこの傾向はこのシリーズ全体を通じて続いていく。

 そしてラングトン教授はいつも(知性の高い)美女から誘われて一緒に捜査をするモテ男だが、なぜか独身。知恵もあれば行動力もあり、学校では生徒から慕われ、警察も一目置くほどのスーパーマンのような存在。そのため、閉所恐怖症のトラウマや、ディズニーの時計を愛用するなど人間らしさを垣間見せて、バランスを取っているところが可笑しい。

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  *映画「天使と悪魔」より

 

 ラングトン教授を主人公とするシリーズはこのあと、「ダ・ヴィンチ・コード」(2003年)、「ロスト・シンボル」(2009年)、「インフェルノ」(2013年)、「オリジン」(2018年)と続き、どれも高水準の内容を維持して続いている。このシリーズはジョセフィン·テイ「時の娘」で産声を上げた歴史ミステリーの、1つの到達点ともいえよう。

 本作品に戻るが、驚くべき犯人と、犯人も驚く想定外の真相を用意している。そして最後にとっておきの「トリビア」を使い、救われない「悲劇」を少しだが救済する形で終わらせている

*あと、このシリーズを一度「愛蔵版」で読むことをお勧めします。支えきれない重さの本ですが、「トレビア」が全て図説入りで紹介しています。