小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 検屍官 パトリシア・コーンウェル(1990)

【あらすじ】

 ケイ・スカーペッタは2年前に任命されたバージニア州検屍局長。リッチモンド市警のピート・マリーノ刑事から「30歳の白人女性ローリー・ピーターセンが自宅で強姦され殺された」と連絡があり現場に出向いた。リッチモンドでは2カ月前から強姦殺人事件が続いていた。小学校教師で一人暮らしの白人ブレンダ、裕福な旧家の出で作家のパティ、離婚したばかりの黒人女性セシルの3人が被害者である。プロファイリングによる共通点が見出せなかった。

 ケイは「男優位主義者の単細胞」マリーノ、FBI性格分析官のベントン・ウェズリーと討議し、当時は最先端と言える科学捜査を駆使して捜査するも、犯人を捕まえることができず、市民は震え上がる。そんな時、ついに5人目の被害者が出てしまう。

 

【感想】

 犯罪小説を書くため作者パトリシア・コーンウェルが4年間リッチモンドの検屍局で働いて、「実地訓練」の上に書き上げた作品。そして事件も同じ地区で起きた連続婦女暴行殺人事件を参考にしている。更に言えば主人公のケイ・スカーペッタを自分と同じ位の年齢設定とし、作者自身が当時離婚間近だったためか、主人公を離婚経験者としている。とことんリアリティーを追及した作品となった。

 検屍官は、日本では(「検死官」)死体の解剖とその死因を特定する役割だが、アメリカでは州によって異なり、捜査にも積極的に加わることもある(「科捜研の女」に近いかww)。そして捜査手法も、当時は最先端だったプロファイリングやDNA鑑定などを利用している。またサーバーのハッキングによって情報のリークが大きな問題になるなど、現在も続いている課題を先取った形となった。そうして「探偵小説」からは、明らかに脱皮した作品を作り上げた。

 当然主人公の検屍官ケイはその道のプロ。医者の資格を有するのは当然だが、医科大学では教授を務めながら、ロースクールでも学んでいるスーパーウーマン。そんな彼女の1人称で物語は進んでいく。「推定無罪」でもそうだったが、専門家を主人公とする場合専門用語などの説明が必要になるため、自分が思ったり考えたりしたことを1人称で述べた方が、読者に伝わりやすい利点もある。

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 そして事件も「推定無罪」と同様、女性の暴行殺人をテーマとしている。ともすれば女性の立場で感情移入しがちな事件だが、ケイは検屍官の「プロ」としてクールに、事実を冷徹に観察して捜査を進める。職場での人間関係も権力闘争や男女の関係なども描かれていて、それば捜査に影を落とす場合も似ている。これもアメリカの当時の「リアル」だったのか。そして女性はまだ「男尊女卑」が残っている職場の中で、自身のプロとしての誇りを胸に、事件解決に立ち向かうことになる。

 最後はケイ自身が犯人に狙われることになる。結局は助けられるのだが、自分で犯人に銃を向けて自分の身を守ろうとする。これも当時のアメリカが求める一つの姿であり、この主人公像が時代にマッチしたのだろう。本作品はシリーズとして長期に渡り、ケイは一つの女性主人公像として確立した。そしてこの後、女性がその道の「プロ」として活躍する、ケイの後継者をアメリカのミステリー界は次々と生み出すことになる。