小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 偽のデュー警部 ピーター・ラムゼイ(1982)

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【あらすじ】

 時は1921年。歯科医のウォルターは妻のリディアから、何の相談もなくアメリカに行ってハリウッド映画で一旗揚げると宣言される。歯科医の仕事もあるし突然の話で同行を拒否するも、妻は一向に構わず、無名の頃に一緒に舞台に出たことがある喜劇王チャーリー・チャップリンを頼るべく、アメリカ行きを進めてしまう。

 ウォルターはその時、花屋の店員から熱く言い寄られていた。「恋に恋する」女性アルマ・ウェブスター。妄想は妄想を呼び、2人はアメリカ行きの豪華客船上で妻を海に放り捨て、その後アルマがリディアの身代わりとなり、そのままアメリカで、2人の新生活を始めようと計画する。

 女性が船から突き落された。しかし死体が発見されるが、死体は妻リディアではなく別の女だった。

 名警部ウォルター・デューの名を騙って船に忍び込んでいたウォルターは、顔立ちも似ていることから名警部と間違えられてしまい、船上で探偵役に祭り上げられ、捜査をする破目になってしまう。

  

【感想】

 舞台は本作品が発行されるおよそ60年前で、日本では大正時代の出来事。そして豪華客船上の事件がノスタルジーを誘う。作品に登場はしないがチャップリンの話題をからませ、章題をチャップリンの名作で統一していることが、雰囲気を更に盛り上げている。時代背景は「タイタニック」に近いが、私は本作品が発行した時代に近い刑事コロンボの「歌声の消えた海」(1975年制作)を思い浮かべた。

 そして物語も、ユーモアに溢れた「ゆるい」展開。もともと犯罪計画を練っていた人間が、ひょんなことで周囲から「偽の」探偵役に祭り上げられる。昔は役者で舞台に上がったことはあるが芽が出ないため、女優で妻のリディアから無理やり役者を辞めさせられ歯医者にされたという経歴。そのためどこをどうとっても犯罪捜査は素人のはすなのに・・・・ とは言え元は事件を起こそうとしていた後ろめたい気持ちもあるため、「偽」である事実を公表できないまま探偵役を「演じて」相手の話を聞いていくことに。するとなぜか相手は素直にしゃべって捜査が進展していく。そして周囲は「さすが名警部!」となってしまう(^^) 

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       *ウィキペディアより

 

 妻のリディアも周囲を全く意に介さないマイペースな、それでいて現実離れした勘違いをもろともしない人物設定。船上にも、一癖も二癖もあるような、キャラが立っている人物を「搭乗」させて、事件と主役たちにいろいろと絡ませてくれる。この辺の「上品な」ユーモアは、先に紹介した「試行錯誤」と同じテイストを感じさせる。またクリスティーもユーモア溢れた作品をいくつか出していて、イギリス文学のユーモアの使い方は奥が深い(前にも使った表現ww)。

 事件は無事解決。ウォルターの不倫相手「恋に恋する」アルマは現実に目が覚め、ウォルターから離れていく。そして「名警部」は事件解決の立役者としてイギリスに凱旋することになるのだが・・・と、ここでどんでん返しというよりは、本作品に相応しい「オチ」が待っている(笑)

 ラストシーンはなぜかタイムスリップ物の映画「ファイナルカウントダウン」や、かわぐちかいじのマンガ「ジパング」と重なった。そして豪華客船が似合う、時代にふさわしい雰囲気が作品全体に覆われていて、その気分を味わうだけでも一読の価値がある。

↓ 何故か本作品とラストシーンのイメージが重なる映画