小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 悪の起源 (1951)

【あらすじ】~あらすじでツッコミを入れてすみません。

 エラリーはハリウッドで執筆活動をするが、いつものように(?)煮詰まる。そこに「ご令嬢」が現れて、父ヒルの死を調査して欲しいと依頼される。父の死は自然死であるものの、死の前には犬の死体と脅迫状が送られていて、脅迫状で父は恐怖におびえるが、その理由を決して語らなかった(これと似たシーン、ホームズの短編で2回は見たぞ!)

 ブライアムとヒルには、共通して狙われる過去があることは判明する。二人とアダムという人物でたまたま宝石の山を掘り当て、ブライアムとヒルは共謀してアダムを殺害し、発掘した宝石を元手にロサンジェルスで宝石商を開き、現在の富を得たのだ(これと似たシーン、ドイルとクリスティーとクイーン(笑)で見たぞ!!)。

  

【感想】

 見立て殺人を好んだ私は、この作品も「得した」気分になった(「殺人」ではないけど)。当時は単純な年頃だったのだ(笑)。おまけに「あやつり」もテーマの一つになっている。そして「十日間の不思議」「九尾の猫」で新旧聖書などをモチーフとしたクイーン、本作ではダーウィンの進化論を取り込んでみせている。

 そしてエラリーも「見立て」の理由を解明する。「ダブル・ダブル」では、見立ての理由に技巧を凝らしたが、今回はややストレートか(それでも、普通の知識ではわからないだろうな。私はお手上げです)。そこで犯人も推測できるが、ここからもう1つの物語が始まる。

 またも探偵としての限界を感じるエラリー。「心理的考察から犯人を推測するため、法的根拠に乏しい(「十日間の不思議」より)」特徴を持つエラリー流推理によると、この事件の真犯人は明白。ところが法的根拠はなく、またその人物が自白をしないので、「真犯人」を追い詰めることができないジレンマと戦うことになる。その設定を改めて考えると、本作品が単に進化論を取り上げただけではない「悪の起源」の題名に繋がる。そしてエラリーは「悪の起源」に対して、どう始末をするのか。

f:id:nmukkun:20210611194636j:plain

 

 「十日間の不思議」、「九尾の猫」、「ダブル・ダブル」そして本作と、作家クイーンは1年に1作ずつ、探偵エラリーの限界を様々な角度から描いたように見えるそれはまるでビートルズジョン・レノン)が「HELP!」と叫んでいるかのよう。

 但し本作は特に前2作(「十日間の不思議」と「九尾の猫」)に比べ悲壮感は少ない。理由の1つは「九尾の猫」を通して、エラリーが成長して、心の中にあった探偵の限界に対して、うまく折り合いがついたと思いたい。もう1つは、この作品自体が、やや滑稽味を帯びて進んでいくことも理由だろう。前作3つの舞台がライツヴィルとニューヨークだったのに対して、本作はハリウッドという「虚飾の町」で起きた事件だからか。

 そして次作は、更に「ぶっ飛んだ」舞台で繰り広げられる「帝王死す」になる(本ブログではスルーします m(_ _)m )。