小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 災厄の町 (1942)

 

【あらすじ】

 名門のライト家にひょんなことで関わりの持ったエラリーは、そこで起きる事件に巻き込まれる。三姉妹の次女ノーラは、3年前に結婚直前で婚約者のジムが失踪する出来事で、田舎町の土地柄もあり周囲の目を気にして塞ぎがちとなってしまった。エラリーが来たころ、結婚の新居として建てた家を借りて住むことになったのだが、その婚約者ジムがひょっこりと姿を現し、ノーラとよりをもどして、正式に結婚することになる。

 但しその結婚生活は再び影を落とすことになる。その原因の一つは、ジムの妹ローズマリーの出現。新婚家庭にずかずかと入り込んで、雰囲気を壊す。もう一つは「配達されない3通の手紙」の発見。ジムの荷物の中に、妹あてに「妻が感謝祭に病気になり」「クリスマスに重体になり」「正月に死んだ」と記されていた手紙が発見される。その通りに妻ノーラが感謝祭に病気になり、クリスマスに重体になる。そして正月に、殺されたのはノーラではなく、妹のローズマリーであった。

  

【感想】

 中学生の当時、日本で「配達されない3通の手紙」の題名で映画化された作品。鑑賞したがクイーンの味わいが全く消え去り、非常に残念な作品としか感想はない。

 小説としては重厚な構成となっている。田舎町のライツヴィル。人口は1万人ほどで町全体が人間関係でつながれていて、善意と悪意が表裏一体になって覆われている。新参者には、表面上は愛想がいいが、どこかよそよそしい。保守的で、共和党の勢力が強そうな(?)土地柄である。

 途中で入る裁判劇(それにしても、偽名が「エラリー・スミス」はひどい。せめて「リチャード・スミス」にして欲しかった)。前作の「中途の家」に共通している部分がある。但し二番煎じには全く感じない。それは本作が「二重構造」になっているからであろう。事件の全容が判明すると、突然、それまで進んできた人間模様がひっくり返る。その衝撃が本作の特徴となっている。

 

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 例えばアガサ・クリスティー。最初は「アクロイド殺し」、「オリエント急行の殺人」「ABC殺人事件」など、トリック先行の作品を描いていたが、「ナイルに死す」以降の作品群はこのような、「人間関係の虚と実」になっていく。そしてクイーンもこのような作品の頻度が高くなっていく。 

 そしてもう一つ。クイーンのデビューは、「都市型探偵小説」を舞台としていた。不特定多数の人物が集まる劇場、デパート、病院、交通機関などで起こる事件と、その群衆も容疑者に含めた推論が「売り」であった。それからだんだん登場人物が絞りこまれ、ついには独自の町を作ってしまった。この傾向は、「帝王死す」「ガラスの村」「第八の日」で更に深まっていく。 

 結末も含め、やや重たいテーマが続く中、ライト家三女のパットが明るくエラリーと絡み、読み進めていく助けとなってくれる。「中途の家」と本作の間にある作品たち。「悪魔の報復」「ハートの4」「ドラゴンの歯」と、女性とからむエラリーを様々なパターンで試しているように見える。