小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12 中途の家 (1936)

 

【あらすじ】

 エラリーは、その前に旧友のビルと偶然出会い、義理の弟であるジョーについて疑惑があり、真相を正す目的で会見場所に向かうその場所で、義弟のジョーが殺害されている現場に遭遇する。

 ジョーは、ビルの疑い通り、ニューヨークとフィラデルフィアで二重生活をしており、その途中、入れ替えに利用するトレントンのあばら家で殺害されたことが判明する。そしてエラリーが一言。

あの男は、どちらの人格で殺されたのでしょう?

 

 【感想】

 しばらくは私の中では「スウェーデン燐寸の謎」だった。国名シリーズが終了した喪失感はあまりに大きく、残念極まりなかった。でもクイーンはクイーン。様々な点で興味を掻き立ててくれる。あらすじでかかれたエラリーの一言もその1つ。この台詞はクイーン全作品を通じての名文句。

 20代のエラリーは、旧友も平気で容疑者の1人として「プロファイリング」の対象とし、捜査の斜め上の視線から見てきたが、本作では旧友ビルとその仲間(フィラデルフィア側)にどんどんと入れ込んでいく。「悲劇に巻き込まれたヒロイン」ルーシーを中心とし、兄のビル、その恋人アンドレアも巻き込んでの人間ドラマが中盤でかなりの紙面を割いて描かれる。対するニューヨーク側は上流階級の典型的な描き方。フィラデルフィアの妻であるルーシーに対しての厳しい視線を投げかけ、そして逮捕に至る。

 

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 裁判劇はかなり長い。権威を背景に巨大な力量で攻めるポーリンジャーに対し、個人の力で抗うビル。リーガルサスペンスとしても見せ場を作りながら、エラリーもかばいきれない追及を受け有罪判決となり、悲劇のヒロインは絶体絶命の窮地に陥る。これは「スペイン」よりもかなり濃厚な(そして典型的な?)人間ドラマになっている。

 ここからエラリーの推理が動き出し、局面を「ひっくり返す」。二重生活者に対する殺人事件に対する推理は、まさに「プロファイリング」にピッタリ。性別、動機、そして「どちらの側か」を次々と当てはめていく。その上でコルクに関する推理は見事。但し、裁判で見事ルーシーを有罪にしたポーリンジャーがエラリーの推理にいちいち感心するのは、どうでしょうか。

 私は初読の時、この「中途の家(Halfway House)」のあばら家を、ホームズの短編で読んだ、妻に見つかった二重生活者が着替える家と同様の意味を単純に連想していた。しかし振り返って見ると数々の評論家が指摘するように、巨大な「エラリー・クイーン山脈」の中継地に位置している「家」でもある。そしてこの作品を経由して、後期の「ライツヴィル」物に移行していく。「中途の家」は、まさにクイーンらしい凝った題名だったのだ。

 

 物語の終盤、「悲劇のヒロイン」が窮地から脱したあと、ビル、ルーシー、そしてアンドレアの3人が子供のように手を繋ぎあって、ソファに並んで座っている姿が微笑ましい。全力を出し切って個々のしがらみを振り切った後の姿は、遊び疲れてベンチで休んでいる子供のようである。

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