小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 スペイン岬の謎 (1935)

【あらすじ】

 ウォルター・ゴッドフリー氏が私有する通称「スペイン岬」の海岸で彼の客人ジョン・マーコの奇妙な絞殺死体が発見された。その被害者はマントに覆われ、その下は全裸だった。そしてその夜、誘拐事件も起きている。

 休暇でこの岬にやってきたエラリーは、偶然のこの事件に関わり合うことになる。殺人事件と誘拐事件に関連はあるのか。なぜマーコがこの屋敷を訪れたのか。 そして、なぜ殺されたマーコは着衣を奪われたのか。

 

【感想】

 本作が国名シリーズの最終作(「日本樫鳥の謎」は原題「The Door Between」)。 

 題名の岬である「cape」は、重要な手がかりになるケープと同形異義語(homograph)となっている。クイーンとしてはどうしてもやりたかった趣向だろう(そういえば、テレビドラマの「エラリー・クイーンの冒険」に、同音異義語(homonym)を使った手がかりがあった)。これだけでクイーンなら「ご飯三杯はいけそう」(雰囲気です、雰囲気ww)。

 物語は第1章「キッド船長の途方もない失敗」で始まる。デーヴィド・カマーを間違えで誘拐した事件を、その姪であるローザが「証人」になる。キッド船長のキャラのため芝居がかっているが、あまり不自然は感じない。さて、これが本筋とどうからんでくるのか。

 そして殺人事件の発生。マントのみを着用した裸の男の死体の発見。「チャイナ」と同様に魅惑的な謎が提示される。そして被害者は脅迫をするジゴロを生業(なりわい)としている悪党で、これは「ローマ」を彷彿(ほうふつ)とさせる。

  登場人物は今までの作品にはない人間臭い人たちの集まりであり、それらが奏でる人間関係のドラマにかなりの紙面を費やしている。「チャイナ」の作風はダネイの好みのようだが、人間ドラマの展開はリーの好みだろうか。そしてこの人間ドラマが収まったところで、謎解きのトリガーとなる新事実の証言があり(「オランダ」を思い出す)、読者への挑戦に移る。

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 いつにない見事な犯人の「登場」と指摘の場面。そして謎解きは、相変わらず流れるよう。裸の理由はちょっと無理があるかな、とも思うけど。

 但し物語の大半に人間ドラマを費やしたため、初期作品に見られた「尖った」ロジックが、弱まった感は否めない。例えば「フランス」。中盤の大半を捜査と証拠集めに費やしたように。更には「ギリシア」。延々とロジックを「いつもより多く」回し続けたように。

 国名シリーズの初期三部作で「読者への挑戦」の高みを極めたクイーンは、国名シリーズの後期三部作で、新たな道筋をつけた。「シャム」では人間の限界とそれに立ち向かう探偵の姿。「チャイナ」では、ナンセンスな中にある真実。そして「スペイン」では、人間関係のドラマと「被害者の犯罪を憎み、犯人に同情する探偵エラリーの葛藤」を。そしてこの三つの道筋が、今後のクイーンの作品の特徴となっていく。

 本作の刊行は1935年。ダネイもリーも(そしてエラリーも)30才になった。作風の広がりは、皆の成長の証であり、ここで青春の、そして国名シリーズの1つの区切りとしたと考えるのは、大げさだろうか。