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【あらすじ】
オランダ記念病院を訪れるエラリー。医長を務める旧友のジョン・ミンチェンに捜査上の助言を求めに来たのだ。折しも病院のパトロンであるアビー・ドールンの緊急手術が行われようとしていた。執刀医は、アメリカ1の外科医とも呼ばれるフランス・ジャニー外科部長。ジャニー医師はドールンから息子同然に育てられ、多額の遺産が遺されることにもなっているという。エラリーらが見学席に着き、ドールンが手術室に運ばれると、ドールンは細い針金で絞殺されていた。
【感想】
初読は中学1年の夏休み。電車での帰宅途中、冷房車両(当時は珍しかった)に座って読んでいた。地元駅近くで「幕間」の場面になり、止めるに止められなくなって、結局次の駅まで行って戻ってきた。この本を改めて読むと、その時の電車の中の薄暗い様子と、電車から降りた時の眩(まぶ)しい日差しのコントラストが鮮やかに脳裏に蘇る。
事件発生後、旧友のジョンと協力して(「フランス」でも同じような光景が・・・・)現場を封鎖させ、リチャード警視らを呼び寄せるエラリー。犯行現場ではジャニー医師と思しき人物が目撃されている。しかしジャニー医師にはアリバイがあり、加えて犯人が遺棄したと思われる制服ズボンと靴が発見される。その靴の特徴から、エラリーは何物かがジャニーに成り済ましたと推測。だがジャニー医師はアリバイを保証する人物について口を割ろうとせず、疑惑は深まる。
今回も「エラリー流プロファイリング」は健在。その上で今回見事だったのは、「ローマ」では「あるべきはずなのにない」帽子から推論させ、「フランス」は証拠を一つ一つ収集する様子を描き、本作では証拠の大部分を「靴と制服」に絞り込んだ。クイーンは作品を重ねるごとに、読者の視点を証拠(手がかり)に集中させ、そして「読者への挑戦」の純度を一作一作高めていった。
但しこれだけでは犯人の特性は絞れても、「特定」はできない。そして第2の殺人事件が発生する。やはり細い針金で絞殺されたのは、捜査上で容疑者とされたジャニー医師。その現場で「あるべきはずなのにない」ことに疑問を持つエラリー。その疑問が解けた時一機に解決に向かう。
犯人を指摘する場面での親子のアイコンタクトは微笑ましい。なお容疑者が次の被害者となるこの構成は、本作品の翌年刊行された作品と同じ軌跡を描く。
中学1年の夏休みのあの日。「幕間」を読み終わり、電車から降りて帰宅し、さっそく続きを読み始めた。再開した場面は「丸太の渋滞」の話。
刈り出し人が、渋滞の原因となっている丸太を探す――流れを堰き止めている木――言うなれば“鍵の丸太”だ。あった!刈り出し人は発見する。たぐり寄せ、ひねり、押し出す――すると引っかかりが取れ、丸太は直立したのち、矢のように流れ去る。(角川文庫版「オランダ靴の秘密」232頁。訳:越前敏弥・国弘喜美代)
この夏以降、何か問題があると、ポイントは何か、何が引っ掛かっているのかを、この「丸太の渋滞」を頭に浮かべながら考えることになった。それは現在も続いている。
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