小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

殿堂3 唇のねじれた男 (冒険)

 日がまたがる時間になった。前作の衝撃が余りにも大きく、眠気は完全醒めて1人でトイレにも行けなくなり(笑)、やむなく次の作品に移ることに。「赤毛組合」のような作品であることを祈りつつ・・・ 

【あらすじ】

 アヘン窟にいる知人を救いに来たワトスン医師は、そこでホームズと出くわす。潜入捜査中であったホームズは、その事件の内容をワトスンに語る。それはアヘン窟の建物の三階にいた紳士、ネビル・セントクレアがちょうど通りかかった夫人に目撃され、そのまま姿を消したという話。窓枠には血痕があり、明らかに紳士がいた形跡があるのだが、居るのは乞食のブーンのみ。ブーンは逮捕されるのだが、果たして紳士の行方は・・・ 

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【感想】

 まず小学生の私にはアヘン窟がわからなかったが、「アヘン戦争」は知っていたので、乏しい想像力をつかってイメージした。結果的にその想像に大きな違いはなかったが、そのため「また」恐ろしい物語かと、怯えながら読んだ。

 ところが幸いにも(?)事件の舞台は一転する。郊外にある、依頼人である行方不明の紳士、ネビル・セントクレア氏の夫人が住む自宅に行く途中で、馬車の中で事件の概要を整理して話すホームズ。そしてネビルの自宅に到着し、夫人から夫のネビルから手紙が来たとの新事実を告げられる。ホームズの推理ではネビルは既に亡くなっていると考えていた。しかし新たな事実が判明したことにより、事件の真相に迫る全てのピースを集めて、推理を組み立て直す。

 丁度私がこの作品を読んでいる時間帯。ホームズは大きめの青いガウンをはおり、枕とクッションを集め、タバコとマッチを傍らに置き、準備を整えて「推理三昧」のゾーンに入る。私も布団にくるまりながらホームズ物語に入り込む。そして夜明けの光とともに、ホームズに天啓がひらめく!

 事件解決の鍵が浴室の中、というヒントがあるものの、私には天啓はひらめかない。ヒントが気になりながらもホームズは警察に赴き、そこで突然事件は解決に至る。一瞬にして物語の設定がひっくり返る展開には心を奪われた。

 そして犯人(?)から語られる事件の真相は非常に興味深く感じた。当時は「日の沈まぬ国」と言われた大英帝国の、世界の中心たるロンドンの光と影。後から思うと、冒頭にアヘン窟を持ってきたのも、単なる事件の舞台だけでない深い意味が含まれているのだろう。

 期待通りの、「赤毛組合」のテイストを感じさせる読後感。この作品でまた、ホームズ物語に引き込まれた。

 なおホームズが夜明けに天啓がひらめき、一つの推理が組み立てられる光景は、私の脳裏に自然に浮かんだ。その光景は、後日グラナダTVが制作した、ジェレミー・ブレッドが演じるホームズ(日本語題は「もう一つの顔」)を観たときの画像とそっくり! ドラマを鑑賞したときは、「デジャヴ」を感じた。